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千葉地方裁判所 昭和53年(ワ)299号 判決

原告 甲野太郎

右訴訟代理人弁護士 鈴木信一

同 米津進

右訴訟復代理人弁護士 若山正彦

被告 總合開発株式会社

右代表者代表取締役 榎本吉太郎

被告 榎本吉太郎

右両名訴訟代理人弁護士 内山誠一

同 宮原守男

同 渥美雅子

同 鶴岡誠

主文

一  原告の請求をいずれも棄却する。

二  訴訟費用は原告の負担とする。

事実

第一当事者の求めた裁判

一  請求の趣旨

1  被告らは各自原告に対し、金一〇〇万円およびこれに対する昭和四五年一月一四日から支払ずみに至るまで年五分の割合による金員を支払え。

2  訴訟費用は被告らの連帯負担とする。

3  仮執行の宣言

二  請求の趣旨に対する被告らの答弁

主文同旨

第二当事者の主張

一  請求原因

1  被告總合開発株式会社(以下「被告会社」という。)は不動産の売買斡旋等を業とする会社であり、被告榎本吉太郎(以下「被告榎本」という。)は被告会社の代表取締役である。

2  被告会社は、昭和四〇年六月八日、訴外石崎石三(以下「石崎」という。)との間で別紙目録一記載の土地九筆(以下「本件土地」という。)を代金一六〇四万五四五〇円で買い受ける契約(以下「本件契約」という。)を締結した。本件契約は同日のうちに代金全額につき支払が了され、さらに同月一〇日売買による所有権移転登記も了された。

3  原告は、右売買当事者間の契約締結に尽力したので、本件契約締結の日に、被告会社は原告に対し、金二〇〇万円と本件土地の一部五〇坪(うち三〇坪は無償で残り二〇坪は坪当り金一万円で)提供する旨の約束をなし、同日、原告は被告会社代表者の被告榎本からその内金として金一〇〇万円の支払を受けた。

4  しかるに、被告榎本は被告会社の代表者として、昭和四一年春頃、千葉地方検察庁木更津支部に「原告は、石崎所有地について、その売買の斡旋をするかの如く装い、また原告所有地について、これを被告会社に売却する如く装い、その旨誤信した被告会社をして礼金名義で金一〇〇万円の支払をさせ、これを騙取した」との事実で、原告を詐欺罪で告訴(以下「本件告訴」という。)した。

5  本件告訴にかかる詐欺被疑事件は、昭和四一年一一月二二日「嫌疑なし」の理由により不起訴処分となった。被告榎本は、被告会社の代表者として右不起訴処分を不当として、その頃木更津検察審査会に対し審査の申立をしたが、同審査会は、昭和四二年七月二八日「本件不起訴処分は相当である」旨の議決をなした。

6  ところで、被告会社の本件告訴は、故意に虚偽の事実を申告して原告を陥れるためになされた誣告であるか、少なくとも虚偽の事実であることを知らないことに過失があり、原告はこのため長期間被疑者の地位におかれ、言辞に尽せない有形無形の損害を受けた。これによって受けた原告の精神的損害を慰藉するには一〇〇万円が相当である。

7  被告榎本は、被告会社の代表者として本件告訴をなすにつき、告訴事実が虚偽であることを知っていたか、少なくとも知らないことに過失があるから、原告に対し、被告会社と連帯して損害を賠償する責任がある。

8  よって、原告は被告らに対し、被告らの右不法行為に基づき慰藉料金一〇〇万円およびこれに対する不法行為の後である昭和四五年一月一四日から支払ずみに至るまで民法所定の年五分の割合による遅延損害金の支払を求める。

二  請求原因に対する認否及び被告らの主張

1  同1、2、5項の各事実はすべて認める。

2  同3項中原告に金一〇〇万円を手渡したことは認め、その余の事実は否認。

3  同4項の事実中、被告榎本が被告会社を代表して原告主張の頃、原告を詐欺罪で千葉地方検察庁木更津支部に告訴したことは認めるが、その余は否認する。原告主張の告訴要旨は重要な核心的事実を故意に欠落させている。

4  同6、7項の各事実はすべて否認する。

5  被告らの主張は次のとおりである。

被告会社は、真実に基づいて、本件告訴をなしたものであって、本件告訴は違法性のないものである。仮に、本件告訴事実と客観的な真実との間に些細な末梢部分に食違いがあるとしても、真実性の証明については、その主要な部分において真実であれば足りると解すべきである。

仮にしからずとするも、被告らにおいて、本件告訴事実の存在を証明することができると信ずるにつき、相当な理由があり、本件告訴をなしたことには違法性がない。

そして、本件紛争の核心は、原告が公衆用道路用地の代替地の件につき、被告榎本を含め関係者全員を欺罔していたことにある。即ち、原告は、本件契約の媒介をするに際し、被告会社が石崎の義務を承継して、本件土地の一部である別紙目録二記載の土地(以下「A地」という。)を富津市岩瀬の岩瀬地区のため公衆用道路用地として提供するにあたり、被告会社代表者の被告榎本に対し、右A地の代替地につき、真実は、原告が、既に昭和三九年一月一六日、右岩瀬地区の共有地であった別紙目録三記載の土地五九〇坪八合四勺のうち五二八坪を共有者代表刈込吉雄らから代金二九〇万円で買い受けた際、公衆用道路用地の代替地として、右土地のうち残りの部分六二坪八合四勺(以下「B地」という。)を無償で取得し、右土地全部につき所有権移転登記を経由し、自己が公衆用道路用地提供義務を負っていたものであるにもかかわらず、その事実を秘し、A地の代替地として、岩瀬地区の共有地である別紙目録四記載の土地の大半(以下「C地」という。)が被告会社に提供される旨虚構の事実を申し向け、被告らをしてA地の代替地として直ちにC地が被告会社に譲渡されるものと誤信させて、被告会社と石崎との間で、昭和四〇年六月八日、本件契約を締結せしめたところ、後日、被告会社がA地の代替地としてC地を岩瀬地区に要求するに至り、岩瀬地区では、既に代替地は原告に引渡し済みであるとのことが判明したものであって、原告の欺罔行為が明らかとなり、従って一〇〇万円も騙取されたことになる。

三  抗弁

1(一)  被告会社の告訴が不法行為にあたるとしても、原告を告訴したのは昭和四一年春頃であるから、本訴提起の日において、既に三年以上の期間を経過している。

(二) 被告らは、本訴において右時効を援用する。

2  原告被告会社間の千葉地方裁判所木更津支部昭和四〇年(ワ)第五六号、同四一年(ワ)第一九号事件において、昭和四二年一一月一日、和解が成立したが、右事件においても本件告訴事実である詐欺が成立するか否かが主要な争点となっており、右和解は本件告訴事件をも含めてなされたものである。そして、原告は、右和解条項四項でその余の請求を放棄しているのであるから、原告に本件損害賠償請求権は存しない。

四  抗弁に対する認否

1  抗弁1項(一)は争う。被告らは、昭和四一年一一月二二日、本件告訴が「嫌疑なし」との理由で不起訴処分とされるまでの間、右告訴行為を維持したし、さらに不起訴処分となるや、間もなく木更津検察審査会に審査の申立をなし、昭和四二年七月二八日、同審査会が「本件不起訴は相当である」との議決をなすまで右申立行為を維持した。従って、被告らの原告に対する本件不法行為は、昭和四二年七月二八日まで継続してきたものである。また、原告は、被告らが告訴した事実を検察官の取調べを受けるまで知らなかったし、本件告訴の結末については、同年七月二八日付の同審査会の議決書を受け取るまで全く知らなかったのであるから、本件不法行為に対する原告の認識の点においても被告らの抗弁は理由がない。

2  同2項の事実のうち、被告ら主張の日に被告ら主張の訴訟事件において、原告および被告会社間に和解の成立したことは認めるが、その余は争う。原告の本訴請求は右和解の対象とはなっておらず、また被告榎本はそもそも右和解の当事者にもなっていない。

第三証拠《省略》

理由

一  被告会社が不動産の売買斡旋等を業とする会社であり、被告榎本が被告会社の代表取締役であることは、当事者間に争いがない。

二  被告榎本が、被告会社の代表者として昭和四一年春頃原告を詐欺罪で千葉地方検察庁木更津支部に告訴したことは、当事者間に争いがない。

三  そこで、本件告訴が、虚偽の事実を申告した違法な告訴であるかについて検討する。

1  《証拠省略》によれば、被告会社が原告を告訴した犯罪事実は次のとおりであることを認めることができる。

原告は、昭和四〇年六月八日に被告会社と石崎との間で本件不動産を代金一六〇四万五四五〇円で売買する本件契約が成立した際、右売買取引について斡旋者であるミドリ不動産株式会社社長白井卯吉に同行して石崎方に白井等を案内したのみであって、特に右取引の斡旋又は尽力をした事実がないのに、右取引が多額の取引であるため、買主売主間に強いて首を突込みその間に介在し、私利を図ろうと企て、

(一)  石崎が君津郡大佐和町岩瀬地区内の刈込吉雄外一四名の共有者全員に対し、道路敷として提供した土地の換地として、右共有者から字元木場九〇〇番三原野二畝一一歩(この土地の大半がC地である。)を受取った上、これを石崎から被告会社に交付することに決っていたところ、原告は被告会社の代理人の如く装い、右土地を自己において受取った上自己名義に所有権移転登記を経てこれを領得し、未だに被告会社にこれを交付しないのに、石崎から受取っていないかのように被告会社を誤信させ

(二)  字元木場九〇三番三雑種地一畝二一歩が本件契約において、契約の目的である不動産の一部であって、その代金も全額支払済みであり、かつ既に石崎名義で払下げを経て被告会社に所有権移転登記済みであるから、再度原告名義をもって払下げを受けることや、被告会社が再度購入する必要のないものであるのに、本件売買の目的物たる土地が広大にして複雑であり、売主もにわかにその内容を詳知できないことを奇貨とし、「右雑種地一畝二一歩は旧公道分であり、未だ払下げを受けていないから、この土地は本件契約の外に原告において自己名義で払下げを受けた後、改めて原告から被告会社に対し売買契約を結ぶ必要がある。」と虚言を申向けて被告会社をしてその旨誤信させ、

(三)  次に売主石崎が幅四メートルの道路敷として共有者等に土地を提供するために代地として、右共有者等より受取るべき字元木場九〇三番原野二畝一一歩もまた被告会社において交付を受けることに決っていたのに、原告は被告会社に対し「原告において受取った上これを被告会社に交付する」と虚言を申し向け、その旨被告会社を誤信させ、もって自己において右代地を受取ったままこれを被告会社に交付しなかった。

(四)  即ち、原告は被告会社が当然交付を受けられるものを交付を受けられないもののように説明し、(一)ないし(三)のような斡旋をしてやると申し向けて、その旨被告会社を誤信させ、かつ早朝にして被告榎本の最も多忙な時に乗じ、念書と題し、権利金名義で金二〇〇万円、報酬として土地五〇坪中三〇坪を整地の上無償で、二〇坪を整地の上坪金一万円の単価で有償で原告に各譲渡する等の事実を記載した書面を被告会社に持参し、右書面を熟読考慮の余裕を与えず、強いて被告会社をしてこれに署名捺印させ、金二〇〇万円中金一〇〇万円を受取って右金員騙取の目的を遂げ、更に土地及び残額一〇〇万円の交付を求めてこれを騙取しようとしている。

2  まず、本件契約の成立に至る過程において原告がいかなる役割を担っていたかについて検討するに、この点につき被告らは、原告は右認定の告訴事実においては本件契約の斡旋又は尽力をしたことがないと主張しているが、証拠に徴するに、《証拠省略》によれば、原告は、古くから石崎を知っており、本件土地は石崎とのそうした関係から当初は原告が譲受ける方向で話が進められていたが、原告の資金不足などから立消えになっていたところ、本件土地の買主として被告会社がミドリ不動産株式会社を通じて出現したため、原告は被告会社やミドリ不動産株式会社に対しその頃から買主たる地位から退き石崎と被告会社間の売買に協力するとともにその代償として相当額の謝礼を要求していたこと、本件契約の成立について原告の斡旋仲介はミドリ不動産株式会社のそれに比較して格別劣るものではなく、原告の協力なくしては本件契約の成立はなかったものであることを認めることができ(る。)《証拠判断省略》

(一)  告訴事実(一)、(三)について

次に、各告訴事実につき検討するに、告訴事実(一)、(三)については、《証拠省略》を総合すれば、次の事実を認めることができ(る。)《証拠判断省略》

昭和三九年一月一六日ころ、岩瀬地区の共有者代表刈込吉雄は原告との間で、岩瀬地区の共有地字元木場九〇〇番二、宅地五九〇坪八合四勺を売却するに際し、内六二坪八合四勺(B地)を大佐和町のために公衆用道路用地として寄附するので、残り五二八坪だけを代金二九〇万円で原告に売却する、右六二坪八合四勺は公衆用道路用地として使用すると解すべき合意が成立した。右合意によれば、原告は九〇〇番二の土地につき五二八坪の売却を受けたにすぎないのに、公衆用道路用地を含んだ五九〇坪八合四勺の土地全部の所有権移転登記を経由して土地全部を占有した。従って、原告は自己が占有する九〇〇番二の土地から公衆用道路用地を提供しなければならない義務を負担していたことになるが、右合意の内容については原告と刈込吉雄間に争いがあり、原告は必ずしも右のごとく解してはいなかった。

ところが、昭和四〇年六月八日被告会社と石崎の間で本件土地について本件契約が成立した(この事実は当事者間に争いがない。)が、原告はその際、本件土地の一部(九〇一番二の山林、九〇二番の宅地の各一部)を大佐和町の公衆用道路用地として提供しなければならないので、交換地としてC地が岩瀬地区の共有者から提供される旨の交換の合意が成立していると、被告榎本及び石崎に説明し、原告が責任をもってC地を被告会社に引渡すと約束したので、石崎の右交換契約の権利義務を被告榎本が承継する旨の念書(乙第五号証)が作成された。被告会社は本件土地を購入後、公衆用道路用地として本件土地からA地を分筆して、A地を岩瀬地区に公衆用道路として提供し、交換地としてC地の引渡しを原告に要求し、さらに直接岩瀬地区代表者刈込吉雄に要求したところ、同人から公衆用道路用地の代替地は既に原告に引渡し済みであるから、C地を被告会社に引渡すことはできないと拒否された。そこで、被告榎本、ミドリ不動産株式会社社長白井卯吉、刈込吉雄をはじめ岩瀬地区の共有者数名が、原告を交えて会合をもったが、その席でも刈込吉雄は、公衆用道路用地の代替地として六二坪八合四勺を原告に与えてあると言明したが、原告はこれを否定した。その後一〇日余り過ぎた昭和四〇年一〇月一二日に原告が被告会社に対し、本件土地全部に処分禁止の仮処分を求め、その決定を得たので、被告会社は本件土地に老人センターのマンションを作る計画に着手していたため、予定が狂ってしまい、右仮処分に対抗する意味もあって、被告榎本は本件告訴を決意したものである。

右事実によれば、原告は刈込吉雄との九〇〇番二の土地の売買の際に、売買の対象に含まれていない公衆用道路用地六二坪八合四勺を取り込んで、九〇〇番二の土地全部について、所有権移転登記を経由し占有したのであるから、九〇〇番二の土地から公衆用道路用地を提供しなければならないのに、これをせず、かつ、右事実を秘して、本件契約の仲介をする際、本件土地が九〇〇番二の隣地に位置することを奇貨として、本件土地から公衆用道路用地としてA地を提供させようともくろみ、岩瀬地区の承諾も得ていないのに、得ているかのように装って、公衆用道路用地としてA地を岩瀬地区のために提供すれば、その代替地として岩瀬地区からC地の引渡しを直ちに受けられる旨被告会社を欺罔したものである、と疑うことは十分可能であるというべきである。

なお、告訴事実(一)、(三)については、その不法に領得したとされる土地は、地目、地積が同一で地番が異なるが、いずれも公衆用道路用地の代替地であり、告訴事実(三)の字元木場九〇三番に該当する土地は見当らないから、同一事実が誤って重複していると解され、結局、詐欺が成立するとすれば、告訴事実(一)の九〇〇番三を原告が公衆用道路用地の代替地として詐取したということになる。

(二)  告訴事実(二)について

前掲各証拠によれば、字元木場九〇三番三雑種地一畝二一歩はもと公道であったが、石崎がその払下げを受け、かつ本件契約の目的物件の一部であって、売買契約書に関してもそのような表示になっていたが、原告は故意か過失か右土地は払下げにはなっておらず、売買契約から除外すべきであると考え、現に売買契約書と同日に作成された念書では右土地は除外されるべきものとして取扱われ、他方被告らは原告の説明などから右土地は払下げが未了で、原告がその払下げ手続を了して所有名義を取得し、しかるうえで被告会社の所有名義にすべく尽力してくれるものと信じていたことを認めることができる。

右事実によると、原告は旧公道分が既に払下げ済みであることを知りながら、払下げられていない旨被告榎本に申し向けてその旨誤信させたものと疑うことは十分可能であったというべきである。

(三)  告訴事実(四)について

前掲甲第二号証(念書)、《証拠省略》によれば、昭和四〇年六月八日の早朝、原告が「本件契約成立の際には、被告会社代表者被告榎本が、原告に二〇〇万円を支払い並びに本件土地の内五〇坪(内二〇坪は坪当り一万円で譲渡する)を贈与する」旨を記載した念書を被告榎本方に持参し、被告榎本が右念書に署名押印し、その日に売主石崎方で本件契約が成立し、その日のうちに原告が現金の先渡しを要求したので、被告榎本は一〇〇万円を手渡したことが認められる。

右事実によれば、被告榎本は任意に念書に署名し、原告に一〇〇万円を支払ったものであるが、ただ前認定のとおり、原告は公衆用道路用地の代替地について、被告榎本に対し真実は引渡しができないにもかかわらず、C地を引渡すことができるかのように装い、その旨被告榎本を誤信せしめたことを疑うことができることを考えると、金二〇〇万円等の仲介の報酬を約束させ、そのうち金一〇〇万円の交付を受けたものであるから、金一〇〇万円は原告が騙取したものと疑うことは十分可能であるが、他方原告は前判示のごとく石崎と被告会社間にあって本件契約につき重要な斡旋仲介行為をしており、相当額の対価を受取るべき立場にあり、この事実は詐欺罪の成立につき微妙な影響があるともいうことができる。

3  以上の次第で、本件告訴において申告した犯罪事実は、原告が公衆用道路用地の代替地を不法に領得したこと、本件土地のうち旧公道分につき払下げ金名下に金員を騙取しようとしたこと及び本件契約の仲介に立回り一〇〇万円を騙取したことであるが、公衆用道路用地の代替地の地番が違っていたり、情況を誇張した表現も見られはするものの、客観的事実は告訴事実に事実全体として大綱で合致しており、被告ら側からみた場合、原告の所為は詐欺罪が成立すると疑うにたりる十分な客観的状況があったということができる。なお、詐欺の犯罪が成立するために不可欠な欺罔の意思の存在については、以上認定の事実関係ならびに本件全証拠によるも明らかではなく、この点はこの種の犯罪につき通常不可欠な強制捜査ないしはこれに準ずる徹底した捜査を欠いている(この点は《証拠省略》によって明らかである。)以上、やむをえないところである。

してみれば、本件告訴は、告訴事実の大綱が客観的事実に合し、原告の犯意の存在も一応疑うにたりる状況が認められるのであるから、部分的に真実と食違っているところがあるが、右食違いは事実全体の性質を基本的に変更するものでないといえるので不法行為を構成するほどの違法な告訴と解すことはできない。従って、その余の判断をするまでもなく、本件告訴は不法行為とはならないものというべきである。

四  よって、原告の請求はいずれも理由がないから、これを棄却し、訴訟費用の負担につき民事訴訟法八九条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 朝山崇 裁判官 塚原朋一 小倉正三)

〈以下省略〉

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